スマートウォッチは、毎日ほとんど意識されないまま膨大なデータを生みます。脈波、心電図、加速度、睡眠中の動き。これまでは目的ごとに別々のAIを作るのが一般的でした。その前提を変えようとしているのが、身体データの基盤モデルです。

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「身体のLLM」は、あくまで比喩である

大規模言語モデルは、大量の文章から語の並びや文脈の規則性を学び、要約や翻訳など複数の仕事に再利用されます。身体の基盤モデルも発想は似ています。ラベルの付いていない大量の信号から、隠した区間を復元したり、同じ人・同じ時間帯の信号を対応づけたりして、波形や時間変化を圧縮した「表現」を学びます。

学んだ表現に少量の正解データを加え、睡眠段階の分類、活動の推定、特定の所見の検出といった目的別モデルへ適応させます。一つの課題だけを解くモデルではなく、複数の下流タスクへ再利用しやすい土台であることが「基盤モデル」と呼ばれる理由です。

心拍に単語が並んでいるわけではありません。再利用できる規則性を学ぶことと、身体の意味を理解することは別です。
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ラベルのない日常が、学習資源になる

医療・健康データでは専門家によるラベル付けが高価で、対象となる人や症例数にも限りがあります。一方、ウェアラブルには、診断名などのラベルがなくても長期間の連続データがあります。自己教師あり学習は、この非対称性と相性のよい方法です。

Appleの研究チームは、約14万1,000人から約3年間に収集されたApple WatchのPPG(光学式脈波)とECG(心電図)で基盤モデルを学習しました。[1] 公開PPGモデルPaPaGeiは、約5万7,000時間、2,000万区間の信号を使い、心血管、睡眠、妊娠、ウェルビーイングにまたがる20課題で評価されています。[2]

さらにAppleの2025年研究は、歩数、活動、睡眠など、個々の波形より長い時間幅を持つ行動データへ基盤モデルを拡張しました。[3] 重要なのは単にデータ量を増やしたことではなく、「一つの測定値」ではなく時間の中で繰り返すパターンを学習対象にしたことです。

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心臓、睡眠、声をつなぐ

次の段階はマルチモーダル化です。SleepFMは、脳活動、ECG、呼吸などを含む約65,000人・58万5,000時間超の睡眠検査データから共通表現を学び、睡眠段階、睡眠時無呼吸、将来の疾患リスクとの関連を検証しました。[4]

2026年のCardiac Sensing Foundation Modelは、約170万人のECG・PPGと臨床レポートなどを統合し、機器や利用場面の違いを越えた転移を試みています。[5]

音も身体信号になり得ます。GoogleのHeARは、咳、呼吸、発話など3億1,300万件の2秒音声クリップを使い、少量のラベルから健康音響の課題を開発しやすくする表現を研究・公開しました。[6][7]

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予測できることと、理解したことは違う

基盤モデルが年齢や疾患ラベルを予測できても、原因を理解したとは限りません。装着機器、測定環境、受診者の偏り、肌の色、年齢、地域など、本来の目的とは異なる手がかりを使っている可能性があります。

SleepFMの論文自身も、睡眠外来を中心とした集団であること、時間とともに性能が低下し得ること、学習表現の解釈が難しいことを限界に挙げています。[4] 研究用の高密度な睡眠検査と、手首で断続的に測る消費者向けデバイスも同じではありません。

集団で得られた疾患リスクとの関連を、個人の診断へ直結させることはできません。さらに学習表現には、本人が意図していない属性まで含まれ得ます。同意、保存期間、二次利用、削除可能性も、予測性能と同じくらい重要です。

  • 学習集団と、実際に使う人々はどの程度似ているか。
  • センサーや装着条件が変わっても性能を保てるか。
  • 平均的な精度の陰に、特定の属性群での失敗が隠れていないか。
  • 予測対象に必要のない個人属性まで表現に残っていないか。
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Lumoが考える「身体の基盤」

価値があるのは、万能な健康スコアを作ることではありません。心拍、睡眠、声、行動を時間軸で結び、まず「いつもの自分」と比べること。そして、観測した事実、モデルによる推定、まだ分からないことを分けて返すことです。

身体の基盤モデルは、答えを量産する装置ではなく、少ないラベルから新しい問いを調べるための共通言語になり得ます。その可能性を現実にするのは、モデルの大きさより、個人差、文脈、プライバシーを含めた設計です。

身体を学ぶAIの品質は、何を予測できるかだけでなく、誰のデータで学び、どこまで転移し、何を推定してよいかで決まります。

Sources

参考文献

  1. Large-scale Training of Foundation Models for Wearable BiosignalsAbbaspourazad H, et al. · ICLR · 2024 · 査読済み
  2. PaPaGei: Open Foundation Models for Optical Physiological SignalsPillai A, et al. · ICLR · 2025 · 査読済み
  3. Beyond Sensor Data: Foundation Models of Behavioral Data from Wearables Improve Health PredictionsErturk E, et al. · ICML · 2025 · 査読済み
  4. A multimodal sleep foundation model for disease predictionThapa R, et al. · Nature Medicine · 2026 · 査読済み
  5. Cardiac health assessment across scenarios and devices using a multimodal foundation model pretrained on data from 1.7 million individualsGu A, et al. · Nature Machine Intelligence · 2026 · 査読済み
  6. Towards Health Acoustic RepresentationsBaur S, et al. · arXiv · 2024 · 査読前プレプリント
  7. HeAR — Health AI Developer FoundationsGoogle · Google for Developers · 2025年更新 · 公式モデル資料